監督:リリ・リザ
プロデューサー:ミラ・レスマナ
アジア・フォーカスではおなじみ、インドネシアを代表する名匠、リリ・リザ監督。2009年の「虹の兵士たち」をはじめ、今まで4作品が招待されています。今回は前作とは異なる方向性で製作したとのこと。映画の背景について活発なQ&Aが交わされました。
Q:監督の作品はインドネシアの歴史に関わったものが多いですが、今回描いているアタンブアという街はどのような場所なのでしょうか?
A:2002年に独立した東ティモールとインドネシアの国境の街です。独立後、インドネシアに弾圧され、東ティモールから25万人とも言われる難民がこの街にやって来たと言われています。東ティモールは元々、ポルトガルとオランダの植民地であったため、その影響が濃く、映画でもご覧になれますように、99%がカトリックの信者です。私はアタンブアという街を調査していくにあたり、さまざまな政治の問題、そして正義の問題に突き当たりました。この映画の主人公・ロナルドは息子・ジョアオを育てるために、母と娘を東ティモールに残したまま、この街にやってきており、それゆえに起こるさまざまな心情を描きたいと思いました。
Q:映画内に出てくる美しい織物が印象的です。監督の首にかかっているものもインドネシアの織物ですよね?どういった意味があるんですか?
A:これはとても伝統的なインドネシアの織物です。布はあるシンボルとされていて、亡くなった方のものは何年間か残さなくてはいけない習慣があります。しかし、決してはずして処分するのを忘れてはいけないものなんです。
Q:これまで撮られた映画とはずいぶん違った印象を受けました。俳優はどのように選んだんですか?
A:この映画は、青年ジョアオというよりも、その父・ロナルドが主の物語です。ロナルドはさまざまな政治的な問題に巻き込まれ、旅を続けてきました。私がアタンブアに行って、ロナルド役の男性を紹介してもらいました。ロナルド役の男性が現地の人々に声をかけてくれて、俳優が決まったという感じです。みなさん、実際アタンプアに住む素人の俳優です。彼らは普段通り、東ティモールの言葉を使っています。
Q:今までと違った方向性でこの映画を撮られた理由を教えてください。前作「夢追いかけて」では同じく青年が主人公でしたが、明るい未来が開けて行く前向きな映画ですよね。今回は、過去に戻るというか鎮魂歌のようにも感じました。
A:映画をつくるにあたり、前作との違いを追求することは必然的なことです。前作をつくり終え、今作の企画を練っている時に、いろいろ考えました。「映画ってどんなものか?」とまで考えました。現在、インドネシアでは同じジャンルの映画の繰り返しです。例えばラブストーリーとかですね。あと、デジタル・テクノロジーがどんどん発展しています。私はそれに反したものを作りたかったんです。
今映画祭のシンポジウムでパネリストとしても活躍したリリ・リザ監督とミラ・レスマナプロデューサーのお二人。ファンの質問に丁寧に優しく答えていた姿が印象的でした。