ディレクター梁木のアジア映画館

梁木ディレクターのここが見どころ!⑯ 【日本映画特集「しゃらくせえ絵師たち」】

 

     ©写楽製作委員会

しゃらくさい時代がありました。むろん、しゃらくさい人々がいました。浮世絵を磁場に見えてくればいいなと思っていたのは、ひと言でいえば、しゃらくささです。時間が止まったような江戸の世に、ちっぽけな版画の画面に、歌舞伎の舞台に、力づくで浮世(憂世)を閉じ込めようとするしゃらくささ。江戸のしゃらくささを、さらに映画に無理やり押し込めようとするのも、しゃらくさいし、この7本に出てくる人間たちも、しゃらくさい。60年代から70年代にかけては、ほかにも大島渚の「新宿泥棒日記」、松本俊夫の「修羅」、寺山修司の「田園に死す」など、ぼくの大好きなしゃらくさい映画がありました。本特集の最後に位置する篠田正浩の「写楽」は、しゃらくさくなくなってしまった時代と映画へのレクイエムではなかったのか、と思ってしまう今日この頃です。しゃらくささよ、いまいずこ?

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梁木ディレクターのここが見どころ!⑮ 【予兆の森で〈イラン〉】

 
134分を1カットで撮影した傑作!
始終漂う不安感は病み付きに

今年もっとも衝撃的な作品です。芸術的にもとても洗練された作品。134分をワンカットで撮影しているというのも、以前にヒッチコックやソクーロフなどの試みはあるものの、何といっても驚異的。森に囲まれた湖畔、凧揚げイベントに参加するために集まった学生たち。近くのレストランの料理人たちは料理のための“肉”を探しに森をさまよう。まがまがしい予兆をはらみながら、カメラは永遠に移動し続けます。

ホラーのテイストで始まるのに、ホラーの現場が出てこない。不吉な予感だけでどこまでも引っ張っていく。デヴィッド・リンチみたいです。観客は何か恐ろしいことが起こるという「不安」をはらみながら、さまよい続ける。そして、同じ場面に何回も戻ってくる。ハンガリーのタル・ベーラ監督作品みたいです。別の場面に移っても必ずまた同じところに戻る。出口がない。原題の「猫が魚を狙っている」という状態が続く。ぼくらの心の中みたいです。観客は、じっと観つづけるしかない。今一番現代的な作品だと思います。


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梁木ディレクターのここが見どころ!⑭ 【神の眼の下(もと)に〈韓国/カンボジア〉】

 
究極の状況の下での、
人間の苦悩と選択を描く人間ドラマ

80年代の韓国映画といえば、泥臭く、とことん過激なイ・ジャンホでした。その名を聞かなくなってから久しいのですが、なんと19年ぶりに長編を監督。これは見逃せません。東南アジアで宣教活動をする韓国人のカトリック信者9人。高揚した気分でイスラム過激派の人たちが支配する地域に足を踏み入れたと思ったら、一行は拉致されてしまう。命をとるか、宗教をとるか、究極の選択を迫られる宣教師たち、信者たち。さあ、どうする……?

信仰する人々の苦悩を、韓国リアリズム映画の巨匠イ・ジャンホ監督が繊細かつ大胆な心理描写で描きます。神のもとに人間は信じる心を持ち続けられるか。沸騰する人間ドラマです。ずいぶん昔に読んだ遠藤周作の小説「沈黙」を思い出しました。


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梁木ディレクターのここが見どころ!⑬ 【ブラインド・マッサージ〈中国/フランス〉】

 
絡み合う人間模様
タブーに挑戦する監督の最新作

圧倒的な演出力です。そして、息が詰まるほどの人間臭さ。南京のマッサージ院を舞台に、そこに働く男女の愛と憎しみ、欲望と嫉妬、目が不自由だからこそ一層凝縮された人間ドラマが展開するわけです。一組のカップルが新入りとして働きだして以来、平穏だった職場は一変します。微細な音を拾う音響、視力がない人々を思い出させる不鮮明な映像、とにかく登場人物たちの生々しい息遣いをこれでもかと叩きつけるような圧倒的な力がスクリーンにみなぎっています。もうこれだけでお腹がいっぱいになります。

中国第6世代を代表する監督ロウ・イエは、中国ではタブーに属する天安門事件や同性愛などを正面から描き、かなり危ない橋を渡りながら強烈に人間を描き出しています。第5世代が商業路線に走ってしまった現在、この骨っぽさはさすがです。「ふたりの人魚」や「天安門、恋人たち(原題:頤和園)」など、さかのぼってご覧になっていただきたい監督です。


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梁木ディレクターのここが見どころ!⑫ 【絵の中の池〈イラン〉】

 
小さな家族の大きな愛にあふれた物語

こんなに最小限の物語で、こんなに感動するのかと、われながら驚いてしまいます。軽度の知的障がいをかかえる両親に大切に育てられた息子ソへイル。貧しいながらも笑顔の絶えない温かな家庭で幸せな毎日を送っています。しかし小学校の高学年になり、自分の家庭が他とは違うことを恥ずかしいと感じるようになります。ほかの家の子になれたらどんなにいいだろうかと。

夫婦の演技がとてもいじらしく、チャーミングで、それだけでもう十分と言えるくらい。純真な気持ちが観客にストレートに伝わってきます。できればご家族で観ていただきたい。イラン映画は、結末よりも、与えられた困難をどうクリアしていくか、主人公がプロセスをどう闘うかを描くのがうまい。そういう意味でとてもイラン的な作品です。さりげないところの色使いがステキです。ぜひお見逃しないように。


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梁木ディレクターのここが見どころ!⑪ 【福福荘の福ちゃん〈日本〉】

 
福ちゃんの不思議な力
懐かしさ漂う人情コメディー

人気お笑いトリオ「森三中」の大島美幸が丸坊主のおっさん役に挑戦した初主演作品。カナダでみごと主演女優賞に輝きました。おめでとうございます。福福荘というおんぼろアパートに住む中年塗装工の福ちゃんこと福田辰男が、過去の体験からの“女性トラウマ”を克服してゆく姿を、脱力系のおかしさにくるんで描いています。
福ちゃんの生き方は、普通に物ごとを考え普通に生きていて、とてもシンプル。「昔はあんなおっちゃんいたよね」という、昔の日本人のいい部分をもっている。福ちゃんと触れ合うことで、周囲の人たちが普通になっていくという不思議な力を持っている。福ちゃんのまわりは奇人変人だらけで、日本人はどこか神経を病んでしまっているなあと思いつつ、ゆるいカーブ玉を投げてくるような福ちゃんの生き方がとても心地よいです。
人との触れ合いがちょっと苦手な若い人が観てくれるといいなと思います。


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梁木ディレクターのここが見どころ!⑩ 【私は彼ではない〈トルコ/ギリシャ/フランス〉】

 
人間の内に秘めた欲望を独特のリズムで描く

安倍公房に「他人の顔」という小説あります。手術で他人の顔になりすますという話でしたが、こちらは究極の他人の空似です。設定は違いますが、アイデンティティーを問題にしているという点で、テイストはかなり近いです。中年の独り者が、同僚の女性の家に夕食を食べに行く。居間の写真を見ると、自分がいる。それは自分にそっくりな彼女の亭主で、現在、服役中。彼女と同居するうちに、男は亭主の物を使ったりするようになる。それもつかの間、唐突に彼女は事故死。男は、そのまま亭主に成り代わる。すると亭主が脱獄し、亭主の代わりに自分も追っかけられることに……。
他人になっていくことが快感になり、追われていることが恍惚に変わる。自分のアイデンティティーが揺らいでいく人間のおそれとおののき。カフカ的な展開が魅力的な作品です。観終わったあと、自分はだれなのか? という疑問に向き合うことになります。


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梁木ディレクターのここが見どころ!⑨ 【兄弟〈フランス/グルジア〉】

 
グルジア内戦を少年の視点から鮮明に描く

40年以上も前、旧ソ連時代のグルジア映画にはいい作品がありました。「ピロスマニ」とか「落葉」など、静謐な芸術作品でした。これは久しぶりのすばらしいグルジア映画です。1990年代初頭、ソ連が崩壊するちょうどその頃のこと。首都トビリシは内戦の混乱期にありました。ふたりの兄弟の物語です。兄は、将来に向けて高い教育を受けられたはずなのに、内戦に巻き込まれ、不毛な日々を過ごすうちに悪の道に迷い込んでしまう。才能豊かな弟は、ピアニストを目指していたのですが、ますます激しくなる内戦のために、困難に直面する。グルジアの光である、芸術という希望が消えそうになる……。
この時期に青春時代を送った監督が、自身の体験や実話をもとに、祖国が変わってゆくさまを失われた世代の視点から鮮明に描いた哀歌です。弟役を演じるのは、本当にピアニストを目指すかわいらしい少年です。


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梁木ディレクターのここが見どころ!⑧ 【慶州〈韓国〉】

 
古都・慶州を舞台に
チャン・リュル監督が描く不思議な旅

福岡では4作目となる、ひさしぶりのチャン・リュル作品。ゆったりとしたテンポは変わらず、鋭くシュールで巧まざるユーモアも健在なのですが、加えて脱俗の詩情が漂い、人生を眺望しているという感じがします。監督は朝鮮系中国人ですので、中国と韓国の間を越境し、さらに生と死の間を越境するという大人の映画です。

中国の大学で教鞭をとるチェ・ヒョンは、友人の葬儀のために、久しぶりに韓国に戻る。葬儀の後、友人との昔話の中で、ふと共に慶州を旅したときに見た茶屋の壁にあった春画を思い出す。チェ・ヒョンは、衝動的に慶州へと向うわけですが……。

日本でいうと奈良に当たるらしい慶州という古い土地が、現在と過去、生と死を交錯させるのに重要な役目を担っています。古墳の夜景をバックにしたシーンの深さと美しさは、特筆ものです。主演は人気男優、パク・ヘイル。



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梁木ディレクターのここが見どころ!⑦ 【サピ〈フィリピン〉】

 
スーパーリアルな社会派ホラー!

フィリピンを代表する巨匠メンドーサの新作は、アジア映画ファンなら見ておきたいですね。この作品も、社会の本質をえぐって過激です。緊張感あふれるドキュメンタリータッチの映像が、スタートから観客をぐいぐいと惹きつけます。視聴率で一喜一憂するテレビ界にとって、悪魔憑きという超常現象は格好のネタ。カメラマンが悪魔憑きの映像を他局に横流しにするところから話は始まります。そして恐ろしい超常現象がカメラクルーひとりひとりの孤独な日常に割り込んでくることで、現実と非現実の境界がぼやけ、恐怖がフラッシュバックのように現れては消えてゆく。そして恐怖はテレビ局全体、社会全体に広がってゆきます。

「どん底」や「ばあさん」で社会の最底辺をリアルに切り取ったドキュメンタリー風手法は、今回、テレビ局が舞台となって、支配層の腐敗までも視野に入れています。ホラーだけで終わらず、社会を支配するメディアの現実もえぐりだしています。さすがメンドーサ。



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