ディレクター梁木のアジア映画館

梁木ディレクターのここが見どころ!⑥ 【シッダルタ〈インド/カナダ〉】

 
これがインドの現実

行方不明者を捜すというインド映画が、けっこう目につきます。きっと実際に行方不明が多いからでしょう。デリーでジッパーを修理して細々と生活しているマヘンダル。苦しい家計の足しにと12歳の息子を遠方の工場に働きに出す。ところが、期限が過ぎても息子は帰ってこない。いても立ってもいられない父親は、自分で息子捜しの旅に出る。頼れる人もお金もない。貧しくて、息子も写真もない。そんな父親が愚直なまでにひたすらさまようその姿に、インドの現実の厳しさがひしひし伝わってきて、祈るような気持ちでスクリーンを見つめてしまいます。

インドの現実を何とかしたいという思い加えて、この現実はどうしようもないけれど、人間への信頼だけは失いたくないという覚悟が伝わってきます。素直に感動します。



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梁木ディレクターのここが見どころ!⑤ 【山猪(いのしし)温泉〈台湾〉】

 
災害から立ち上がる人々を応援する
心温まる人間ドラマ

まず、奥深い山間部を襲う強力な台風のシーンから始まり、かなりリアルなのでドキュメンタリーではないかと思ってしまう。土砂崩れなどで村は崩壊状態。だんだんわかってくるのは、ここで小さな温泉を営む夫婦がいて、ビデオ撮影が趣味の夫は、台風を撮りに行ったきり戻ってこないこと。残された妻は途方に暮れる。温泉も出なくなり、ホテルの継続も難しい。この土地をどうすればいいのか? 地元を再生できるのか、それとも買いに来たデベロッパーに土地を売るのか……とまどいのなかで生きる人々、というとなんか普通ですけど、そうじゃない。

全編沈んだモノクロですが、死んだ夫が残したカラーのホームビデオが無造作に挿入されます。それがすばらしい。何の変哲もないホームビデオが、悲しいぐらい幸福に思えます。希望の見えない現在と、失われた幸福な過去。そこからどう立ち上がるのか? 地味ですが、いい作品です。





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梁木ディレクターのここが見どころ!④ 【タイムライン〈タイ〉】

 
甘く切ないタイ式ラブストーリー

タイの恋愛映画には独特のタッチがあります。生と死が隔てても、ふたりの愛はなお一層燃え上がる……昨年の「ピーマック」もそうでしたが、今年も、タイ映画の王道です。北部チェンマイ。夫を亡くし、イチゴ農園を経営しながら一人息子テーンを育てた母。テーンは進路を決める際に母の希望する農業大学は選ばず、バンコクの大学に進学する。大学の新入生歓迎会でチャーミングなジューンと出会い、恋が芽生えるのですが、やがて三角関係に陥り、ジューンはテーンに告げず日本へ留学して……そして。最後にfacebookのタイムラインに綴られたメッセージに愛の深さを知ることになります。

タイで大ヒットの映画。とりあえず主人公テーン君が超カワイイ。タイで大ブレークしています。ジューンもチャーミング。このふたりを見るだけでも価値はあります。唐津くんちなど、佐賀県唐津市で撮影されたシーンにも注目を。




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梁木ディレクターのここが見どころ!③ 【ひとり〈カザフスタン〉】

 
少年の孤独とプライドが胸に迫る

とんでもない境遇です。母親が死に、父親は家を出ていって、山の村で一人暮らしをしている小学生の話なのですから。父親はたまにしか帰ってこない。少年に周りの大人は親切にするどころか、子供だからと意地悪をするし、学校の先生も同級生もやさしくしてくれる人はだれもいない。健気に頑張ってはいるけれど、心は折れそうになる。ある日、都会の学校に行っている兄ちゃんが帰ってきます……これで、意地悪をされないですむ!

ところが、あてにしていた兄ちゃんも、自分のことしか考えないやつだった。ひとりぼっちで佇む少年の無言の孤独がひしひしとスクリーンから伝わって、胸がいっぱいになります。いっておきますが、これは児童映画ではありません。そんな甘いものではありません。ひとは孤立するしかないのだと思い知らされます。だから、生きていこうと思うのです。



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梁木ディレクターのここが見どころ!② 【ジャングル・スクール〈インドネシア〉】

 
ジャングルの中で学ぶ喜びを知った少年たち

知識はほんとうに人のためになるのか、伝統を破壊するだけではないのかという、近代のジレンマを扱ったとても奥行きの深い作品です。インドネシア、スマトラ島のジャングルを管轄するNGOで働くブテットは、森の上流で子どもたちに読み書きを教えている。ある日、下流の部落の少年に助けられたブテットは、彼の集落の大人たちは、読み書きができないために、外部の人間から不当な扱いを受けていることを知る。だが、下流の森の大人たちは、子どもたちが文字を覚えることに恐怖を感じている。文字を覚えた子どもたちは森を出ていく可能性があるからだ。しかし、純粋に学びを欲する子どもたちの姿は、ブテットを勇気づけ、ジャングル・スクールの創立へと彼女を突き動かしてゆく。

本作は実話に基づいたストーリーで、リリ・リザらしい社会を変革しようという意志と、人間への優しいまなざしがストレートに伝わってきます。



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梁木ディレクターのここが見どころ!① 【ロマンス狂想曲〈台湾〉】

 
台湾と中国大陸の微妙な関係を描く
甘くてちょっと刺激的なラブコメディ

台湾と中国大陸の関係が難しいことは、日本人にはなんとなくわかるのですが、かゆいところに手が届かない。そのむずかしい距離感を、ふたりの若い男女に託して描いた、技ありの作品です。役所に勤める草食系男子アーチェンは、まずまずイケメンで洗練されていて、人当たりもいい感じ。いかにも台湾の若者らしい。ある日、北京から祖母の初恋の人を探しに来たチン・ランという鼻っ柱の強い美人と出会います。大陸人らしい押しの強さ、強烈な自己主張にとまどいながら、人探しに協力をすることになる。感じ方や考え方の違いにふたりはぶつかってばかり。近づけそうで近づけない……ノンストップ・ラブ・コメディです。

いかにも台湾映画らしい親密な雰囲気を保ちながらも、アップテンポの展開がとてもいい気持ち。楽しみながら、台湾と中国大陸の距離感が納得できます。



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ナデルとシミン(仮題) / Nader and Simin, A Separation



とにかく緊密な展開と演出力がずばぬけていて、どんな端役でも人生を背負ってそこにいる。アジアフォーカス2009の「アバウト・エリ」で、イラン映画のあらたな次元を切り開いたファルハディ監督ならではの作品ですね。まだ若いのですが、もはや円熟した巨匠といってもいいくらいの完成度で、今回の上映作品の中ではナンバーワンといえるでしょう。

イスラム社会の、建前ではない人間ドラマが深いところまで描かれています。嘘をつくことが許されないイスラム教の教えを前提に、個人レベルでは正しいと思うことを行ったがゆえに、全体では負の連鎖になってしまうという悲劇を、だれもが背負ってしまいます。正しさを進めば進むほど泥沼にはまっていく人間模様がくりひろげられ、イスラムに生きることの葛藤を味わうことができます。もしかすると、こういうドラマトゥルギーは、かつて日本映画にもあったかもしれません。たとえば山下耕作の傑作「博奕打ち 総長賭博」の義理と人情の板挟みによる悲劇などは、かなり近い世界のようにも思えます。

あらすじ・予告編はこちらからご覧ください。

邦題 ナデルとシミン(仮題)
英題 Nader and Simin, A Separation
原題 Jodaeiye Nader az Simin
製作国 イラン/Iran
監督 アスガー・ファルハディ
出演 レイラ ハタミ(シミン)

ペイマン モアディ(ナデル)

シャハブ ホセイニ(ホッジャト)

サレー バヤト(ラジエー)

サリナ ファルハディ(テルメー)

ババク キャリミ

アリアスガル シャーバズィ

シリン ヤズダンバクシュ

キミア ホセイニ(ソマイェ)

製作年 2011年
分数 123分

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車の影に / Chassis



絶望ということを忘れないためにも、この映画を見てほしいと思います。ここに出てくるトラックの車体の下に寝起きする女たちに、希望などということばは贅沢すぎるのかもしれません。どこにも救いはないし、もしかしたらと思わせる希望の予兆すら、微塵のごとく砕け散ってしまいます。より良い社会が到来するはずだという楽天的近代主義をだれも信じなくなったいま、アジアの最底辺を、社会のけっしてふさがらない傷口を、だれが癒すことができるというのでしょう。

あらすじ・予告編はこちらからご覧ください。

邦題 車の影に
英題 Chassis
原題 Chassis
製作国 フィリピン/Philippines
監督 アドルフォ・ボリナガ・アリックスJr.
出演 ジョディ・サンタ・マリア (ノーラ)

キンベリー・フルガー(サラ)

レミュエル・ペラヨ(ランド)

アンジェリ・バヤニ(シンシア)

エベリン・バルガス(ビルマ)
製作年 2009年
分数 73分

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遠い帰郷 / Return Ticket



かつて日本にも、そして韓国にも、田舎から大都会へ職を求めて大移動してきた時代がありました。社会が大転換してゆくときのエネルギーと摩擦熱が、すぐれた映画を生み出しました。いま、たぶん中国はその転換期のまっただ中にいるはずです。

しかし、共産党支配のためか、ゲリラ的に作られたインディペンデントを除いて、社会の変化を直接反映する作品が、あまり見当たらないのです。ロウ・ウェイなど骨のある監督がいないわけではありませんが、当局から目をつけられてしまいます。やはり体制が変わらないとダメなのかなあとも思います。

この作品は、地殻が変動しつつある中国社会の裏面を丁寧に描いていますね。「鋼のピアノ」でも感じましたが、中国の俳優さんって、なんだかうますぎる気がします。監督が台湾出身だけあって、情感に訴える作品ですね。

あらすじ・予告編はこちらからご覧ください。

邦題 遠い帰郷
英題 Return Ticket
原題 到阜陽六百里
製作国 中国/China
監督 トン・ヨンシン
出演 チン・ハイルー(ツァオ・リー)

タン・チュン(シエ・チン)
製作年 2011年
分数 88分

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陽に灼けた道 / The Sun Beaten Path



あまり根拠はないのですが、これぞチベット映画と、おもわず言ってしまいたくなる映画です。監督は、もともと(というか今でも)撮影監督なので、セリフはほとんどなく、カメラに哲学的に語らせるという語り口で、これがまたチベット文化の奥の深さを感じさせてくれます。ストーリーはシンプルで、ただただ道を歩いていく、その求道的な道行がいいのですね。余計な飾りは一切なく、観客におもねったりせず、撮りたいから撮った。そこに立ち現われてくる何とも言えない精神のかたちみたいなものが、映像の力なのではないでしょうか。

あらすじ・予告編はこちらからご覧ください。

邦題 陽に灼けた道
英題 The Sun Beaten Path
原題 太阳总在左边
製作国 中国/China
監督 ソンタルジャ
出演 ロブザン:イシ・ルンドゥプ(益西兰周)

老人:ルジェ(罗后杰)

兄:カルザン・リンチェン(尕藏仁青)
製作年 2010年
分数 89分

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