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FOCUS ON CINEMA⑱【トークイベント 〜写楽をめぐって〜】

ゲスト:篠田正浩監督
聞き手:梁木靖弘ディレクター


 

江戸の町と商人文化を鮮やかにあぶり出した「写楽」


シネラのスクリーンに映し出される豪奢な江戸歌舞伎「河原者」と呼ばれる歌舞伎役者や花魁による芸能を享受する江戸商人の姿は、江戸の闇夜を照らす打ち上げ花火のように粋で鮮烈でした。

人気浮世絵師を世に売り出し、江戸の流行を拓く版元「蔦屋」の主人、蔦屋十三郎と謎多き「写楽」という絵師を通して、日本映画界としては唯一ともいえる江戸の暮らしや芸能を活写した本作。梁木靖弘ディレクターが「江戸の歌舞伎を唯一再現できている映画ですよね。製作のきっかけは?」と尋ねると、「もともと、黒澤明を描きたいと思ってたんですけどね」と篠田正浩監督。当時、写楽研究に没頭していたフランキー堺さんと話すうちに、唯一、写楽という存在を知っていた蔦屋重三郎を主人公に据えて描こうと話がまとまったといいます。

「江戸時代の商人は、士農工商の中では一番下の階級とされていましたが、自力で商売をして稼ぎ、実力で勝負してきました。人間として自立した商人や『河原者』と呼ばれる絵師や役者は、他から差別されることで逆に自由を獲得していくわけなんですが、どんな人間だろうと生まれてきて、生きて、死ぬ。そこには階級なんて関係ないんです」と持論を述べる篠田監督。「浮世絵は、私にとって映画史の前史。江戸のある時期、歌麿や北斎、滝沢馬琴など当時は無名だった彼らが同じ時代を生き、同じ場所に居合わせたという偶然を思うたび、私も自分の助監督時代を思い出すんです。当時の助監督には、大島渚や鈴木清順、吉田喜重などそうそうたる人がいましたから」。

「それとね、浮世絵は、絵師、彫り師、刷り師という各々の技を極めた職人が団結して生まれた複合的なユニット、つまりトヨタ車ができあがる過程と同じなんですよ」。この言葉には梁木ディレクターも「そういう意味では、武満徹を始めとするクリエーターをいち早く見出した篠田監督も、蔦屋重三郎のような存在ですよね」とあらためて尊敬の眼差しで見つめます。

「キラ星のごとく現れた絵師の浮世絵を面白いと感じた江戸の町人たち。それこそがこの映画のテーマですよね。単なるストーリーじゃない、江戸文化すべてを映し出しているのが『写楽』」と梁木ディレクター。「次の機会は、小津安二郎の本性をあばきたいね」。時にユーモアを交え、軽妙に映画について語る篠田監督のトークに、参加者の多くはメモをとりながら熱心に聞き入っていました。

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