2019.09.19
映画祭一般上映『シヴァランジャニとふたりの女』Q&A
『シヴァランジャニとふたりの女』Sivaranjani and Two Other Women
2018年/インド/123分
ヴァサント・S・サーイ監督
Q&Aゲスト:ヴァサント・S・サーイ監督 司会:神保慶政
実施日:2019年9月15日
Q(司会): この映画は、監督の出身地でもある南インドの東部にあるチェンナイで撮影されています。風景も含め、土地の風土がよく出ていると思ったのですが、デリーやムンバイなどの大都会とチェンナイでは、女性が置かれた境遇は違うのでしょうか。
A:地域的にはそれほど差はないように思います。私は、地域の違いよりも、時代の違いを重要だと考えています。ですから、この映画は1980年、1995年、2007年と、それぞれ3つの時代を生きる女性たちのオムニバス映画にしました。
Q: 3人のヒロインの中で、シヴァランジャニだけタイトルに名前が入っているのはなぜでしょう。
A: シヴァランジャニの通った道は、ほかの女性2人も通った道である、それは、またすべての女性が通る道だという意味を込めてつけました。最終的に、ヒロインたちには名前がついていますが、当初は全員無名にするつもりでした。つまりこの映画の女性3人は、全員シヴァランジャニだと言えるのです。
Q: エンディングにあえて音楽を使わなかったことで、より映画の感動が強まったように感じました。質問ですが、なぜ男性である監督が、女性についての物語を描こうと思ったのでしょう。
A: 私はかつてクリケットの選手をしていたのですが、練習があるときも、妹が出かける際は必ず付いて行かねばなりませんでした。その頃から、男性と女性では社会的な立場や、扱われ方が違うことに気づき、不思議に思っていました。また、人と人の関係性の中で、沈黙が一番の罪であるとも感じています。暴力を振るわなくても、ただ話さないことで相手をみじめに傷つけることができます。具体的なストーリーについては、20代の頃に読んで忘れられなかったタミル文学を基にしています。
Q(司会):南インドらしい海岸シーンが印象的でした。監督は海のシーンにどんな思いを込めたのでしょう。
A: 人生は海のようなものだと思っています。生命の源でもありますし、生きていると問題が波のように引いては、また押し寄せてきます。撮影した場所が海に囲まれていることもあるのですが、意図としては、3つのストーリーをつなぐという意味合いで使いました。
Q:この映画を観て、韓国の小説「82年生まれ、キム・ジヨン」を思い出しました。心を病んだ33歳の主婦の境遇や心傷を描く作品なのですが、韓国では「キム・ジヨンは私だ」という女性が多く、ベストセラーになりました。この映画も同様に女性の普遍的な境遇について描いていると思うのですが、インドでの女性たちの反応を教えてください。
A:おかげさまで、インドでもよい評価を受けています。ただ私が一番驚いたのは、評価をしてくれるのは、インドの女性だけではないということです。この映画は、アメリカでも5都市で上映されたのですが、どこでも多くの女性客が共感してくれました。中には、テニスプレイヤーでありながら、結婚したことでアスリートとしてのキャリアを捨てざるをえなかった女性もいました。つまり、どんな自由な国でも、時代でも、女性たちはなんらかの差別や、社会的な抑圧を受けているということです。
真摯な態度と情熱的な語り口が印象的だったサーイ監督。そして、観客に深い感動と余韻を残したこの作品は、見ごと今年の福岡観客賞を受賞しました。