ディレクター梁木のアジア映画館

ナデルとシミン(仮題) / Nader and Simin, A Separation



とにかく緊密な展開と演出力がずばぬけていて、どんな端役でも人生を背負ってそこにいる。アジアフォーカス2009の「アバウト・エリ」で、イラン映画のあらたな次元を切り開いたファルハディ監督ならではの作品ですね。まだ若いのですが、もはや円熟した巨匠といってもいいくらいの完成度で、今回の上映作品の中ではナンバーワンといえるでしょう。

イスラム社会の、建前ではない人間ドラマが深いところまで描かれています。嘘をつくことが許されないイスラム教の教えを前提に、個人レベルでは正しいと思うことを行ったがゆえに、全体では負の連鎖になってしまうという悲劇を、だれもが背負ってしまいます。正しさを進めば進むほど泥沼にはまっていく人間模様がくりひろげられ、イスラムに生きることの葛藤を味わうことができます。もしかすると、こういうドラマトゥルギーは、かつて日本映画にもあったかもしれません。たとえば山下耕作の傑作「博奕打ち 総長賭博」の義理と人情の板挟みによる悲劇などは、かなり近い世界のようにも思えます。

あらすじ・予告編はこちらからご覧ください。

邦題 ナデルとシミン(仮題)
英題 Nader and Simin, A Separation
原題 Jodaeiye Nader az Simin
製作国 イラン/Iran
監督 アスガー・ファルハディ
出演 レイラ ハタミ(シミン)

ペイマン モアディ(ナデル)

シャハブ ホセイニ(ホッジャト)

サレー バヤト(ラジエー)

サリナ ファルハディ(テルメー)

ババク キャリミ

アリアスガル シャーバズィ

シリン ヤズダンバクシュ

キミア ホセイニ(ソマイェ)

製作年 2011年
分数 123分

投稿日: 作成者: 事務局スタッフ

車の影に / Chassis



絶望ということを忘れないためにも、この映画を見てほしいと思います。ここに出てくるトラックの車体の下に寝起きする女たちに、希望などということばは贅沢すぎるのかもしれません。どこにも救いはないし、もしかしたらと思わせる希望の予兆すら、微塵のごとく砕け散ってしまいます。より良い社会が到来するはずだという楽天的近代主義をだれも信じなくなったいま、アジアの最底辺を、社会のけっしてふさがらない傷口を、だれが癒すことができるというのでしょう。

あらすじ・予告編はこちらからご覧ください。

邦題 車の影に
英題 Chassis
原題 Chassis
製作国 フィリピン/Philippines
監督 アドルフォ・ボリナガ・アリックスJr.
出演 ジョディ・サンタ・マリア (ノーラ)

キンベリー・フルガー(サラ)

レミュエル・ペラヨ(ランド)

アンジェリ・バヤニ(シンシア)

エベリン・バルガス(ビルマ)
製作年 2009年
分数 73分

投稿日: 作成者: 事務局スタッフ

遠い帰郷 / Return Ticket



かつて日本にも、そして韓国にも、田舎から大都会へ職を求めて大移動してきた時代がありました。社会が大転換してゆくときのエネルギーと摩擦熱が、すぐれた映画を生み出しました。いま、たぶん中国はその転換期のまっただ中にいるはずです。

しかし、共産党支配のためか、ゲリラ的に作られたインディペンデントを除いて、社会の変化を直接反映する作品が、あまり見当たらないのです。ロウ・ウェイなど骨のある監督がいないわけではありませんが、当局から目をつけられてしまいます。やはり体制が変わらないとダメなのかなあとも思います。

この作品は、地殻が変動しつつある中国社会の裏面を丁寧に描いていますね。「鋼のピアノ」でも感じましたが、中国の俳優さんって、なんだかうますぎる気がします。監督が台湾出身だけあって、情感に訴える作品ですね。

あらすじ・予告編はこちらからご覧ください。

邦題 遠い帰郷
英題 Return Ticket
原題 到阜陽六百里
製作国 中国/China
監督 トン・ヨンシン
出演 チン・ハイルー(ツァオ・リー)

タン・チュン(シエ・チン)
製作年 2011年
分数 88分

投稿日: 作成者: 事務局スタッフ

陽に灼けた道 / The Sun Beaten Path



あまり根拠はないのですが、これぞチベット映画と、おもわず言ってしまいたくなる映画です。監督は、もともと(というか今でも)撮影監督なので、セリフはほとんどなく、カメラに哲学的に語らせるという語り口で、これがまたチベット文化の奥の深さを感じさせてくれます。ストーリーはシンプルで、ただただ道を歩いていく、その求道的な道行がいいのですね。余計な飾りは一切なく、観客におもねったりせず、撮りたいから撮った。そこに立ち現われてくる何とも言えない精神のかたちみたいなものが、映像の力なのではないでしょうか。

あらすじ・予告編はこちらからご覧ください。

邦題 陽に灼けた道
英題 The Sun Beaten Path
原題 太阳总在左边
製作国 中国/China
監督 ソンタルジャ
出演 ロブザン:イシ・ルンドゥプ(益西兰周)

老人:ルジェ(罗后杰)

兄:カルザン・リンチェン(尕藏仁青)
製作年 2010年
分数 89分

投稿日: 作成者: 事務局スタッフ

レッド・イーグル / The Red Eagle



ハリウッドも、ボリウッドも真っ青のエンターテインメント大作です。タイのアクション・ヒーローものが、こんなにハイレベルだったことにびっくりです。おもしろさてんこ盛りで、息もつかせぬ展開、わが日本のアクションものなど、とうに追い抜かれていますね。

ハリウッドのアクション・ヒーローように人類を背負って立つという誇大妄想もなければ、ボリウッドのように脳天気でもありません。繊細に悩む現代人なのです。悩むだけでなく、頭痛もちです(笑)。

頭の中に銃弾の破片が入っていて、ときどきとてつもない頭痛に襲われ、鎮痛のために薬物中毒になっているのです。なんか、すごいですね。

あらすじ・予告編はこちらからご覧ください。

邦題 レッド・イーグル
英題 The Red Eagle
原題 The Red Eagle
製作国 タイ/Thailand
監督 ウイシット・サーサナティアン
出演 アナンダ・エヴァリンハム(レッド・イーグル/ローム・リッティグライ)

ヤリンダー・ブンナーク(ワサナー)

ワナシン・プラスータクン(チャート・ウティグライ[警察中尉])
製作年 2010年
分数 130分

投稿日: 作成者: 事務局スタッフ

冬休みの情景 / Winter Vacation



いや、これはおもしろいオフ・ビート・コメディですね。アキ・カウリスマキの「レニングラード・カウボーイ」や、北野武の省略の仕方などを思い出させる、脱力系のおかしさです。登場人物たちは無表情で、カメラも動かず、真顔で子供たちを映し続けるだけなのですが、そこでぽつりと発するセリフのおかしさといったら、無類です。

社会状況を正面から描けないとしたら、人間のおかしさを描くしかないということなのでしょうか。どうでもいいことは省略していくと、人間の生活に残るのは、ホラこんなもんだよ、笑うしかないよ、といいたげな奥深さがすごいです。

あらすじ・予告編はこちらからご覧ください。

邦題 冬休みの情景
英題 Winter Vacation
原題 Han Jia
製作国 中国/China
監督 リー・ホンチー
出演 バイ・ジュンジエ

ジャン・ナーチー

バオ・ジンフェン

シエ・イン

ワン・フイ

バオ・レイ

バイ・シャオホン

ジー・フェン

ウー・グオション

ジアン・チャオ

シャオ・メイチー

ヤオ・ラン
製作年 2010年
分数 91分

協力 NHKアジア・フィルムフェスティバル


投稿日: 作成者: 事務局スタッフ

Bleak Night(原題)※「凍てつく夜に」より改題 / Bleak Night



人と関わりたい、相手を傷つけてまでも。友情の微妙なズレが、抜き差しならない関係へと暴走する。そんな青春の鬱屈を描いた作品です。

日ごろつるんで遊ぶグループであるために、冗談とも本気とも取れるいじめの関係が生じてきます。居心地の悪い閉塞感が漂う中、誰かが、はけ口として、痛めつけられる。互いに意地を張り合い、誰かをターゲットにし、またターゲットになったりする。その閉塞した人間関係と手を切り、新しい世界へ抜け出していける者と、自分の中に抱えこみ抜け出せない者にわかれる。その描写のからみつくような執拗さ、やりきれない重たさ、容赦のないリアルさなど、おそらく韓国独特の剥き出しの人間関係がうかがわれます。

甘さも救いもない青春…そのガラス細工のようなもろさは息苦しく、観客の胸に突き刺さってきます。若いキャストの息詰まるような演技が、なんといってもすばらしい。

あらすじ・予告編はこちらからご覧ください。

邦題 Bleak Night(原題)※「凍てつく夜に」より改題
英題 Bleak Night
原題 Pa su kkun
製作国 韓国/Korea
監督 ユン・ソンヒョン
出演 イ・ジェフン(ギテ)

ソ・ジュニョン(ドンユン)

パク・ジョンミン(ヒジュン)
製作年 2010年
分数 116分

投稿日: 作成者: 事務局スタッフ

ピノイ・サンデー / Pinoy Sunday



全編を通してコメディータッチなんですが、途中から台湾の現実が絡まってくるロードムービー。台湾における外国人出稼ぎ労働者の現実と、見果てぬ夢をコメディーで描いているところが珍しい。そのため、シュールな展開を楽しみます。


あらすじ・予告編はこちらからご覧ください。

邦題 ピノイ・サンデー
英題 Pinoy Sunday
原題 Pinoy Sunday
製作国 台湾・日本・フィリピン・フランス/Taiwan・Japan・Philippines・France
監督 ウィ・ディン・ホー
出演 バヤニ・アグバヤニ(ダド)

エピィ・キソン(マヌエル)

メリル・ソリアーノ(アン)
製作年 2010年
分数 85分

協力 NHKアジア・フィルムフェスティバル


投稿日: 作成者: 事務局スタッフ

鋼のピアノ / The Piano in a Factory



話としてはかなりベタな人情喜劇なのですが、ところがどっこい、ところどころに挟まれる音楽や、シュールな笑いは、相当にハイセンス。画面のダサおもしろさと、キッチュなコミック感覚の両面攻撃で、このツボにはまると、思わず笑い出したくなるような、異様な相乗効果がうまれます。しかも、役者がうまい。なかでも、お父さん役のQian-yuan Wangは、何気なくさらりと高度な芸を見せてくれるので、目利きにはたまらないですね。

いわゆる中国映画かと思ったら裏切られます。すっとぼけた感じがあり、伝統的な人情ものと突き放したおかしさと、両面の面白さを兼ね備えています。政治を正面から描きにくい今の中国ならではの、直球かと思いきや、手元でぐいと曲がるクセ球のような喜劇。さまざまな角度から楽しめます。

あらすじ・予告編はこちらからご覧ください。

邦題 鋼のピアノ
英題 The Piano in a Factory
原題 Gang De Qin(鋼的琴)
製作国 中国/China
監督 チャン・メン
出演 ワン・チエンユエン(チェン・グイリン)

チャン・シニョン(チュイ)
製作年 2010年
分数 105分

協力 東京国際映画祭


投稿日: 作成者: 事務局スタッフ

趙夫人の地獄鍋 / Claypot Curry Killers



イギリスには、ある文化的系譜があります。シェイクスピアの「タイタス・アンドロニカス」をごらんになったことはなくても、スティーヴン・ソンドハイムがミュージカルにして有名になった「スウィニー・トッド」の物語があります。さらに、かつて英国領だった香港には、アンソニー・ウォンの怪演が語り草になった、ハーマン・ヤオの「八仙飯店之人肉饅頭」というとんでもない残酷映画がありました。それに共通するのは、ハテ、いったい何でありましょうや。そして、このマレーシア映画もまた、その系譜を反転させて、受け継いでいます。男を信じられず、恨みだけを持ち続けている母親と美人三姉妹の、男に与える究極の罰が描かれた作品です。

男性諸君は、心の準備をして、いざT・ジョイへ。

あらすじ・予告編はこちらからご覧ください。


邦題 趙夫人の地獄鍋
英題 Claypot Curry Killers
原題 Claypot Curry Killers
製作国 マレーシア/Malaysia
監督 ジェームス・リー
出演 デビー・ゴー(シーシー[長女])

マンディ・チェン(シーユィ[次女])

オリビア・カン(シーメイ[三女])
製作年 2011年
分数 90分

投稿日: 作成者: 事務局スタッフ