2020.09.11
ディレクターによる日本映画特集などの見どころコメントをご紹介します!
当映画祭の梁木靖弘ディレクターによる、公式招待作品や特集の見どころ第2弾をお届けします。今回は「日本映画特集 芦川いづみ特集」、オープニング上映「『福岡』モノクロ 特別上映」です。オープニング上映にあたって、チャン・リュル監督からいただいたコメントもご紹介します。
※オープニング上映(招待イベント)の応募は締め切りました。
【日本映画特集 芦川いづみ特集】
『乳母車』英語タイトル:A Baby Carriage
監督:田坂 具隆(1956年/日本/110分)
『あした晴れるか』英語タイトル:Wait for Tomorrow
監督:中平 康(1960年/日本/91分)
『あじさいの歌』英語タイトル:Blossoms of Love
監督:滝沢 英輔(1960年/日本/106分)
『結婚相談』英語タイトル:The Passionate Spinster
監督:中平 康(1965年/日本/105分)
<梁木ディレクターによる見どころ>
昭和30年代ノスタルジーというものが日本人にはあると思います。それを最大限に体現したものの1つが芦川いづみという女優ではないでしょうか。建造物では東京タワー、俳優では石原裕次郎がいますが、裕次郎は役者としてのスパンが長い。その点、芦川いづみは1950年代半ば~60年代の半ばまでの十数年ほどしかスクリーンで活躍しておらず、その後、銀幕から姿を消したことで、逆に強烈なノスタルジーを掻き立てます。また裕次郎の相手役としては、北原三枝(裕次郎の未亡人で、現在は石原まき子)と浅丘ルリ子がいますが、彼女はその間をつなぐ存在。北原三枝はのちに裕次郎の妻となり、浅丘ルリ子は現在も女優として活躍しているので、時代のアイコンとしてノスタルジーの対象となりえるのは、唯一芦川いづみだけと言えるのです。藤竜也との結婚を機に、女優を引退し、以後銀幕に姿を現さない潔い姿勢は、山口百恵にも似て、強烈な印象を残しました。原節子が“伝説”だとすれば、芦川いづみは映画最盛期の“ヒロイン”。『あじさいの歌』のような深窓の令嬢役が彼女の典型的なイメージですが、実は非常に演技がうまい女優さんでもあります。どの作品も肩の力を抜いて楽しめるものばかりです。ぜひ、今年は本映画祭で昭和ノスタルジーのヒロイン、芦川いづみの魅力をご堪能ください。
【『福岡』モノクロ特別上映】
『福岡』英語タイトル:Fukuoka
監督:チャン・リュル(2019年/韓国/86分)
<梁木ディレクターによる見どころ>
映画『福岡』でチャン・リュル監督が描いている福岡という場所は、現実の世界ではないような気がします。ですから、色がないほうが本来の監督の意図に近いのではないでしょうか。私自身、昨年のカラー版に続き、今年の映画祭でモノクロ版の『福岡』を観られることを心から楽しみにしています。
「福岡」モノクロ 特別上映に寄せて
チャン・リュル監督 ―本年度映画祭カタログより―
フィルムの時代には、1本の映画をモノクロ版とカラー版の両方にすることはできなかったのですが、デジタル時代には、この2種類のヴァージョンを同時に創ることが可能になりました。このような現実に基づき、『福岡』において、私は2種類のヴァージョンを完成させました。カラーは現実をリアルに映すという点で優れており、モノクロームでは映画の物語と登場人物の心情に観客の意識はより集中しやすくなるはずです。だから、1本の映画に2つのヴァージョンがあれば、観客の選択に多様性をもたらすのではないでしょうか。去年、『福岡』のカラー版をご覧になった福岡の観客の皆さんに、今年は、モノクロ版を捧げ、お好みで選べるようにしました。よろしくお願いします。